Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “ちょっとした“お出掛け”?”後日談

            〜たとえば こんな明日はいかが? 参照?
 



          




 まだまだ残暑も厳しくて、暦の上だけの秋と言われつつ。それでも…頭上の空が少ぉし高くなったような気がするし、朝晩の風は心なしか涼しくなったような気もする。

  「ふあぁあ〜〜あ…っ。」

 皆して同んなじ服装の、これが春先なら緑のブレザータイプの制服。今は同じボトムに白い開襟シャツだけを、揃えて着合わせた若人たちが。知己を見つけては楽しげに声を掛け合い、三々五々に寄り合って、同じ方向へ同じ方向へと歩いている。そんな流れの只中で、そりゃあ大きく口を開けての大欠伸をし、いかにもかったるそうなテンポで長い脚をぱたりぱたりと動かしながら。でも背条は真っ直ぐに伸ばしたまんま、最寄りの駅から学校までの道をゆく生徒が一人。ホントは規定があるのだろうに、それでも茶髪が珍しくはない昨今…だとはいえ、それじゃあ随分と目立つだろうというほどの鮮やかな金髪に染めた髪を、整髪料を使ってかピンピンに逆立てて。白い耳朶には金のリングピアスまで装着という徹底した派手さながら、されど、本人の態度にはあんまり不良っぽい気色はない。いかにもだらしなく柄が悪いという訳でなし、のべつ幕無しに周囲へ威嚇的な視線を振り撒いているでなし。挑発的には違いないものの、咬みつく相手を常に求め、気障な言い方で…自分の居場所や生きてることへの手ごたえが常に欲しくてたまらないとかいう人種ではなく。むしろ、そんなもんは自分の力で立ってりゃ自ずと判ろうがという余裕に満ちた、至ってマイペースな青年だというところか。そんな彼の後方から、
「蛭魔く〜んっvv」
 さすがに今では平仮名ではない、それでも気安い呼び声へ。ああんと首だけ回した彼の視野の中。たったかたったか駆けて来たのは、柔らかそうなくせっ毛を頭の上でぴょこぴょこと弾ませている童顔の男の子。同級生はおろか、先輩にあたるOBや、教師・教員、どうかすると歴代のPTA会長各位の皆様までもが、何故かしら何かしら、恐れをもってあたる金髪痩躯の彼…だというのに。このいかにも幼げな雰囲気の男の子は、丸っきり動じないままに接しており。お隣りに並ぶと屈託のないお声で“おはよう”とご挨拶をしてから、

  「あれれぇ? ここ、どうしたの?」

 まだ夏服の白いシャツ。肩幅で合わせたら胸囲や腕の太さが合わなかったのが見え見えな、ぶかぶかでアンバランスなシャツのその袖口のすぐ間近。ひょろりと伸びてる腕の、肘の近くに小さな小さな痣がある。夏の余韻もまだ色濃いこの時期だのに、美白に気を遣う女の子以上に色白な彼だからこそ目立った跡であり、痣を作るなんておドジもまた、そうそうやりっこない彼だから、尚のこと珍しいなと感じたお友達だったらしいのだが、
「ああ。手摺りにぶつけただけだ。」
 大したことはねぇよと、小さく笑う。でもでもヒル魔くんてば、そんな不注意はしないのに? 小首を傾げ、尚も気にする小早川さんチの瀬那くんへ、
「それよか。昨夜のNFLの開幕戦、観たか?」
「あ、見た見たっvv」
 途端に ぱあっと明るく笑う同級生。本場アメリカでも秋からが本番のアメリカン・フットボール。その開幕戦のうちの一試合を昨夜遅く、BSが中継していたのを指しての話題転換であり、
「生意気にも進の野郎のチームだったじゃねぇかよ。」
 しかも相手は○○○○○だったから。ついつい終了間際まで観てちまったじゃねぇかよと、おふざけ半分、絡むような言い方をすれば、
「そだったねぇvv /////////
 こちらさんは…既に“きゃい〜〜〜〜vvv o(><)o”っと叫び出しそなノリへの加速は準備万端だようという、所謂“満面の笑み”状態。お軽い厭味とミーハーカラーと、通じてなかったり あしらわれたりは、毎度のことでお互い様で。片やは大人顔負けの情報網を駆使した強かさが売りの、悪魔のような青年ならば、もう片やは小学生も真っ青な、天然 100%
(…。)の天使のような男の子。あまりの落差に周囲は首を傾げるばかりな組み合わせの二人だが、実は幼稚園時代からの、もう十年以上にもなるお付き合いのお友達同士であって。しかもしかも、
「夏休み中は何週間かこっちに帰って来てたんだろ? そん時に中継のスケジュールの話とか、聞いてなかったんかよ。」
 誰の何というのは省略していても、
「知らないも〜ん。進さんて、あんまり そゆこと話さないし。」
 さすがにちゃんと会話として通じているのは、話題に上った“進さん”というのが彼らに共通の知己であり、アメフトの最高峰、NFLのトップチームに所属してもいる彼らにとっての“先人”だから。小さなセナくんとは、進が高校生でセナが小学生だった頃に見初め合った間柄だが、蛭魔さんチの妖一くんとはもっと早く、彼が生まれた頃からというお付き合い。それこそまだ小学生だった進が、当時の学生アメフト界での立役者だった蛭魔選手
(父)に合宿指導で色々とお世話になったのが、そもそものお付き合いの“始まり”なんだそうで。
「そんでも。じゃあ今月に入ってからならよ。テレビ中継見てておくれっていうよなメールとか、送って来ねぇのか?」
 期間だけなら自分と総長さんとの間柄と同じくらいの、2桁へ突入しようかというほど長い腐れ縁。しかも、このセナには妙に甘かった仁王様だったので、そういう気遣いくらいしてねぇのかよと言及すれば、
「う〜ん。」
 何を思い出そうとしてのことやら。辿り着いた校門前にて立ち止まると、鹿爪らしいお顔になって、小首を傾げたまんまで考え込んで……………数刻後。

  「進さんて、自分のことはあんまりメールして来ないの。」

 にゃは〜〜〜っvvと笑ったセナくんの無邪気さに、通りすがりの女生徒たちがついつい、お隣りのお連れと互いに肘でつつき合いっこしながら、釣られたように微笑んでいたりしたのだが、
“自分のこと以外って………。”
 それって、あの進が一体何を書いて送ってくんだろう? 怪訝を通り越し、理解不能だとお顔が凍った蛭魔くんだったが…ホントだねぇ。(苦笑)でも案外と、凄っごく丁寧な時候のご挨拶から打ってたりしてな。天高く馬肥える秋と言いますが…なんつって。(爆笑)





 クラスの違うセナと廊下で別れて、教室に入り、誰からもさして会釈されることもないままに、辿り着いたる後方の自分の席へと腰掛けて。時折笑い声の入り混じる、輪郭のぼやけたざわめきの中、ふと思い出すのは、奇妙な体験をした昨日の昼下がりのこと。日曜だったのでと、のんびりダラダラ過ごしていたところへ起こった…というか飛び込んで来た、何とも奇妙な出来事と闖入者。

  『…お前、ヨウイチだよな?』

 結果としては、現れたと同様の唐突さで消えた“彼”であり、自分だけが見ていた白昼夢なのかなと、だったら別な意味から恐ろしいなと思ったが。向こうは向こうで小学生の自分と逢っていたという、連れの葉柱が、やはり同じように呆然としており。それからそれから、
『いやぁ〜。色々と思い出したよなぁ』
 お前もサ、あの小ささで、なのにそりゃあ偉そうだったことを思い出しちまったと、懐かしそうに語ってくれたから。こっちだってと、いかに不器用で青々しい“総長さん”だったかを覚えている限り、そりゃあ丁寧に数え上げてやり、そのまま興に乗ってしまって…ホントはいけないんですよの、シャンパン開けての飲み会になだれ込んでしまって、
“うっ・つ〜〜〜☆”
 それでの軽く二日酔いだったりするのだ、こんの不良坊やは。(苦笑)引退した身だから、気が向いたらな…と言いつつ、その実は毎朝のように。秋季大会を間近に控えた後輩たちの早朝トレーニングに付き合うべく、もっと早い時間から出ることの方が多い彼だが、今朝は何だかそんな気分ではなく。それで一般生徒の登校時間に、のんびりとやって来た次第なのだが、
“いっそ休んでも良かったかなぁ。”
 秋季東京都地区大会は来週の日曜からの開催であり、日が迫ってるっちゃあ迫っているが、まだ1週間あるという構え方も出来。放課後からの練習にだけ付き合ってやっても良かったのかも。三年になって春大会までは出た後で引退した身の自分は、本来だったら受験に勤しむ立場だが、実を言えば…アメフトで強豪と謳われている大学から、推薦のお声が既にかかってもいる。スポーツ推薦ではなく、こっそりとそっちの業界で発表した“経済学理論”の論文の完成度を買われての、つまりは学業分野で見込まれての推薦であり。オファーの段階だとはいえ、よほどのポカをしてしくじらない限りは、ほぼ“当確”…もとえ、入学は確実という身の上であり。よって、今期も目指してもらおうクリスマスボウルということで、後進たちをビシバーシっとしごいてやる気は満々なのだが、授業の方は正直かったるい。放課後だけ顔出しても良かったんじゃんと、今頃になって思いつきつつ…窓際の席から見上げた朝ぼらけの空には。昨日も窓の外に見つけた、妙に絵画っぽい陰影が印象的な積雲が、のったりのんびり流れているところ。

  “………そうだ。ルイんトコで時間潰ししてよう。”

 特に仕事が入っているとも聞いてないしなと、こちらさんはカレ氏への把握も完璧な、末恐ろしき恋人さんであり。この一時限目だけは出ててやろうかいと、前のドアから入って来た初老の英語教師に視線を投げて、面倒そうに身を起こした綺麗さん。

  『ただのガキより、大変で。ただのガキより、大切だ。』

 自分の傍にずっといる方の“葉柱”の言葉ではないけれど。同んなじ“彼”の想いなんだから、そうそう掛け離れてはいない筈。自分をどう思うかというような質問をし、辛辣なことや迷いの滲んだ言いようをされたらと、訊いた直後にちょっぴり杞憂もしたけれど。こんな美味しい言葉を貰えたならば、その自信にもたちまち拍車が掛かるというもので。昨日に引き続き、妙に機嫌のいい悪魔さんに、教師も生徒も揃って居心地の悪い思いをした一時限目だったそうですよ?
(苦笑)







            ◇



 体温が籠もってちょっぴり暑い布団の中で、何だか腰の辺りが重いなあと、いい若いもんの朝一番の感慨とは思えないよな感覚にじわじわと目が覚める。昨日は何か変わったコトしたっけか? おふくろに呼ばれて実家のガレージの大掃除を手伝ったのは…先週だしな。キングJr.たちの運動の日は一昨日だったし、そもそも、まだ筋肉痛が出るほど鈍
なまってはいない。誰かさんに付き合わされての、マシンを使っての筋力トレーニングだって欠かしてないし、結構な距離をランニングしてもなかなか息が上がらないのは大したもんだと、現役バリバリの若いのからお褒めの言葉をいただいているのだし。ああ、そうだった。その若いのと遅くまでシャンペンを空けてたんだっけ。日頃何かと偉そうなくせして、実はアルコールには弱くって。あまり過ごさせると危ないからと、こっちはほぼ素面しらふでいたのだが。NFLの衛星中継を観ている間にも、あっさり沈没してくれたので家まで送ってって。…けど、何でそんなこと? 今日は平日だってのに? えっとぉ………?

  “……………あ。”

 痛むのは筋肉じゃあなくて、ぶつけた箇所だと思い出したと同時、その時の状況までもを鮮やかに、でも…どこか朧げに、思い出す。唐突に現れて、やっぱり唐突に消えてった、小生意気で不思議なチビすけ。よっぽどのこと、自分の連れ合いに早く逢いたかったのか、そりゃあ大急ぎで二階へと駆け上がってった階段の途中。転げかかった坊やと坊主と、二人ごと支えた…つもりだったが、踊り場の壁に“だんっ”と背中がぶつかった時、懐ろに抱えていたのは馴染みのある方のヨウイチだけで。ヨウイチもまた“ルイが消えちまった…”と縁起でもないことを呟いていた。そう。昨日、二人揃って体験した不思議な出来事。SFという、映画やドラマ、漫画の世界にこそ頻繁に使われて来たモチーフでありながら、我が身には絶対に起こりっこないと、究極のフィクション設定だと思ってた、超自然現象。正確に言えば、自分がそれに巻き込まれた訳ではなかったが、間違いなく渦中にあった“当事者”に接触を持ってしまった、というレベルにて。何とも希有な体験をしたのだと、改めて思い出してみる。

  ――― 突拍子もないところから突然現れた、過去からの訪問者。

 全部が夢だったと片付けるのは容易いものの、だったらこの腰の痣にはどういう言い訳が的確なんだろうか。そんなこんなをぼんやりと考えていた葉柱の視線が、何か黒っぽいものへと留まる。寝室の隅、室内の薄暗さと床のフローリングのチャコールとに紛れて分かりにくい、黒っぽい影。少しばかり距離のある此処からでは正体が判らず、
“???”
 怪訝そうに眉を寄せ、昨日の続きで…今度は得体の知れないエイリアンが蹲
うずくまっているんだったら困るぜなんて、半分くらいは本気で思いつつ。ベッドから降り、そぉっとそちらへと足を運べば。
“………ああ、何だ。”
 見覚えがあるものだったのでホッとしてから。これって…と、摘まみ上げつつ思考が止まった。だってこれって、昨日の“訪問者”の忘れ物なんだもの。
“何つったっけかな。髪を覆ってた、帽子? ヘアバンド?”
 幅の広いへちま型の、安眠用の目隠しのような形をしたパットのようなもの。漆黒で周囲ぐるりにオーガンジーのフリルの縁取りがあり、両端には結び紐。こんなフェミニンなものが葉柱の私物である筈がなく、ということはやはり、

  “なかったこと、には、出来ないか。”

 何の前触れもなく、葉柱の前へ現れた、10年前のヨウイチ坊や。そりゃあ可憐で小さくて、その愛くるしさへと思わず手が伸びるような、天使みたいな容姿・容貌…なのに。その実体はというと、可憐だなんてとんでもない。凶悪なくらいに偉そうで、度胸があって強かな分、そりゃあそりゃあ我儘で乱暴者。相手が自分にとってどういう利を齎(
たらすのかを、瞬視で見極め、その判断の下に態度を巧妙に使い分けるとんでもない子供だったところの、初めて引き合わされた頃の彼と、さして年齢も変わらないのだろう、まだ小学生だった生意気な小悪魔が、今になって“復刻版”で現れたようなもの。
“まあ…それも強がりの一種ではあったんだろうけど。”
 セットが取れたままに顔へと落ちかかる黒髪を、大きな手で無造作に梳き上げながら。今の“彼”の方を思い出す。もう保護者も要らなく動き回れる、一端の“青年”へと育っている妖一は、妖冶な外見だけでなく強かな中身もまた、幼い頃のその体裁を保ったまんま、言ってみりゃ“拡大コピー”をかけたようなノリで大きくなったと思っていたが、


   “…あんな可愛いことを言うよな奴だったとはね。”


 これもまた、思わぬ事態に遭遇したことで齎されたものであるのなら。ハプニングには違いなくとも、奇禍ではなく幸運だったと思わねばならないのだろうよなと。精悍な口許を笑みで満たして。このややこしい置き土産の処遇を、どうしたもんかと…楽しそうに検討し始めたお兄さんだったりするのであった。









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